養育費を支払ってもらう最も効果的な方法は面会交流を行うこと
養育費の支払に最も効果がある方法
前回の記事では、養育費を支払ってもらうために絶対に決めるべき4つの項目を紹介しました。
しかし、実は、養育費そのものに関してではありませんが、養育費を長期的に支払ってもらうために、絶対に決めておいた方が良いことがあります。
それが面会交流です。
面会交流とは何か
面会交流とは聞き慣れない言葉かもしれません。
簡単に言うと、離れて暮らしている親子が会うことで、以前は面接交渉とも呼ばれていました。
婚姻中の夫婦が別居している場合、あるいは離婚した場合には、どちらか片方が子どもを養育しており、もう一方は子どもと離れて暮らしています。その離れて暮らしている親と子どもが会うことを、面会交流と言います。
離婚後の共同親権は認められない
日本の法律では、夫婦は共同して親権を行使することとされています。
親権は父母の婚姻中は、父母が共同して行う。
しかしこれは婚姻中に限ったことであり、子どもがいる夫婦が離婚をする場合、離婚に際して、どちらかを親権者と定めなければなりません。日本では、下記条文にあるとおり、離婚後の共同親権は認められていないからです。
父母が協議上の離婚をするときは、その協議で、その一方を親権者と定めなければならない。
面会交流は子どもの権利
親権を持たない親、あるいは子どもと離れて暮らしている親が、我が子と会いたいと思うのは当然です。
私が依頼を受けた家事調停関係の事件でも、そういった様子はイヤと言うほど見てきました。
「子どもに会わせろ」「親の自分が子どもに会えないのはおかしい」と、強硬に主張する人もよくいますし、その心情はわかります。
ただ、勘違いをしてはいけないのは、面会交流は親の権利ではなく、子どもの権利だということです。
つまり、子どもに会いたいと思えば、自分が子どもに会いたいからではなく、子どものために会った方が良いという形の主張が必要だということになります。
養育費と面会交流との関係
養育費と面会交流との関係性という点で、非常によくある主張が、「子どもに会わせないなら養育費は支払わない」、あるいは、「養育費も支払っていないのに、子どもに会わせろなんて図々しすぎる」といったようなものです。
一般的な感覚としては、ある意味納得のできる言い分だとは思いますが、法律上は、養育費と面会交流には関連性はありません。
つまり、例え養育費を支払っていなくても、面会交流は行わなければなりませんし、面会させてもらえなくても、養育費は支払わなくてはなりません。
養育費のために面会交流を行うべき理由
しかし、養育費と面会交流が無関係だというのは、あくまでも理屈上の話です。
子どもに全く会わせてもらえない父親が、養育費を快く支払ってくれるとは思えません。そもそも、別れた妻に対し、(養育費という名の)お金を渡すこと自体、不愉快に思っている人は多くいます。
そういった人には、まず、養育費というのがどういった性格のお金であるのかをわかってもらう必要があります。もちろん、子どもの養育のために使われるお金だということは、誰しも理解しているでしょう。しかし、単に頭でわかっているだけではなく、我が子の健やかな成長のために必要なお金だということを、心から納得してもらう必要があります。
そのためには、子どもに会わせるのが最善の方法であるということは容易にわかってもらえるはずです。
1か月に1回、子どもとの面会を行い、夏休みやお正月には、1泊の旅行に行くなどすれば、子どもの成長を肌で感じ、愛情も薄れることはないでしょう。
そういう心情になってこそ、10年、20年という長期間にわたって、養育費を支払い続けることができるのです。 別れた夫や妻とは会いたくないという気持ちは十分に理解できますが、子どものためと思えば、それも我慢できるのではないでしょうか。
養育費を支払ってもらうために絶対に決めるべき4項目
養育費の取り決めの際に必ず決定すべきこと
養育費の取り決めに際して、次の4つのことを必ず決めておかなければなりません。
養育費の金額
養育費をいつまで支払うのか
養育費をどのように支払うのか
イレギュラーな事態への対応方法
では1つずつ解説していきます。
子ども1人あたりの養育費の金額をいくらにするのか
養育費の取り決めというと、当然その金額が必要です。養育費の取り決めはしたが、金額を決め忘れたなどということはおそらくないでしょう。 金額の決め方などについては、以前にお話をしましたので、この記事を参考にしてください。
http://kt-labo.net/childsupport/kingakupoint
とにかく、まず金額を決める、これは最優先事項で間違いありません。
養育費をいつまで支払うのか
養育費を支払う約束をした場合でも、金額以外の部分については決めていないということがよくあります。例えば、養育費をいつまで支払うのか、つまり養育費の支払終期についてです。
実際にきちんと養育費が支払われている場合、いつまで支払ってもらえるのかというのは、非常に重要な問題です。特に、子どもが大学へ行っている場合には、大学を卒業するまで支払ってもらいたいと思うのが普通でしょう。
法律上の支払終期の解釈
ところで、養育費の支払は子どもが20歳になるまでだと考えている方は多いと思いますが、いかがでしょうか。確かに、その考えは間違っていませんが、ではなぜそう考えているか、はっきりと自分で説明できますか?
実は、「養育費の支払は子どもが20歳に達するまでとする」といったような条文は存在しません。ただ、養育費とか親子関係とかについて規定している民法の条文を解釈していくと、20歳になった子どもについては、養育費が支払われる対象ではないという結論になるのです。
その理論構成は次のとおりです。ちょっと面倒くさい話なので、興味のない方は飛ばしてください。
黄色でマークした部分が、養育費のことです。
これはどういうことかと言うと、「子の監護」は「親権」という権利の中の一種であるということです。親権者が監護権を持っており、その監護のために必要な費用を受け取る権利があることを意味します。つまり、親権者だからこそ養育費を支払ってもらえるということになります。 ところで、民法には次のような条文があります。
この2つの条文によると、20歳未満は成年ではないので、父母の親権に服することになります。逆に言うと、20歳以上は親権に服さない、つまり親は親権者ではなくなるということです。
結論としては、養育費を支払ってもらえる条件は親権者であることですが、子どもが20歳に達すると親は親権者ではなくなってしまうので、養育費を支払ってもらう権利もなくなるというわけです。
養育費の支払終期に関する実務上の取り扱い
上記はあくまでも理論的な解釈の問題で、裁判など実務上での取り扱いとしては、個々の事情に応じて、子どもが大学を卒業するまで養育費を支払うのが相当と認められる場合には、例え成年に達していたとしても、養育費を支払うべきだと考えます。
具体的には、両親がともに子どもの大学進学を望んでいた場合や、養育費支払義務者が経済的に養育費を支払える状態にある場合などです。
現在では、大学へ進学するのは珍しいことではありませんので、養育費についての取り決めをする段階で、「子どもが大学を卒業するまでは養育費を支払う」と決めておくほうが良いでしょう。
養育費をどのように支払うのか
養育費は通常、1か月毎の分割払いです。しかし、一括で支払うという方法もあります。
養育費の支払は分割か一括か
分割払いのデメリット
1か月毎の分割の場合、相当な長期間になる覚悟が必要です。支払が長期化することの最大のデメリットは、途中で支払われなくなる可能性が高いということでしょう。
また、養育費の支払を受けるという点で、離婚した相手と長期間つながりを持たなくてはなりません。
その点、一括払いであれば、途中で支払われなくなる危険もありませんし、一度支払を受けてしまえば、その後は全く接触をする必要もありません。
一括払いのデメリット
養育費の金額というのは、合計すると相当な高額になることが多くあります。毎月5万円の養育費を10年間支払うとすると合計600万円になります。
離婚に際して、これだけの金額を一度に支払えるケースというのはそう多くはないと思います。実際、養育費を一括で支払う場合には、分割で支払う合計額よりも、少額で合意をすることが多いはずです。分割払いのリスクを避けるためであれば、多少の減額に応じるのも頷けます。
養育費の具体的な支払手続
最も一般的な養育費の支払方法は、毎月1回、指定された口座に入金するというものでしょう。ただ、これだと支払義務者の積極的な行動が必要になりますので、時間の経過とともに支払われなくなる可能性は高くなります。
そこで、私はいつも、養育費の支払を受ける方からの相談には、金融機関の自動送金サービスを利用するよう薦めています。支払義務者が何もしなくても、自動的に送金されますので、長期間にわたって支払を確保するには、非常に有効な手段だと思います。
イレギュラーな事態への対応方法
養育費の支払は、長い場合には20年以上に及ぶこともあります。当然、その間にはさまざまなことが起こります。子どもが怪我をして高額な手術代が必要になるかもしれませんし、海外へ留学することになるかもしれません。
そういった全ての事態を想定して、養育費の取り決めを行うことは不可能ですが、私立大学への入学など、ある程度想定できるものについては、養育費の取り決めの段階で、どのように対応するのか、できるだけ具体的に盛り込んでおくべきでしょう。
一般的によく使われる文言としては、次のようなものがあります。
当事者双方は、子どもの病気、進学等の特別の費用の負担については、別途協議することとする。
また、離婚後、いずれかが再婚をすることも十分考えられますので、この点を取り決めに加えておくケースもよくあります。
【養育費を受け取る側】が再婚したときは、【養育費を支払う側】に対し、養育費について、再婚した月以降の支払を免除する。
養育費の取り決めをすることは非常に重要です。子どもの未来が変わる可能性すらあります。 離婚時には、相手との感情的な対立があるかもしれませんが、冷静になって、粛々と手続を進めるべきです。それが難しい場合には、弁護士などに依頼することも検討すべきでしょう。
養育費の金額を決める際におさえておくべきポイント
養育費の金額をいくらにするかは非常に重要です。ポイントをおさえて適切な金額を決めましょう。
養育費の金額の決め方
協議離婚の場合、通常、養育費をいくらにするかは、当事者間の話し合いで決めることになります。金額は双方が合意すれば良いわけですから、ある意味自由です。
一方、審判などで裁判所が決める場合には、明確な基準があります。この基準は、どのぐらいの養育費が妥当であるのかの目安になりますので、当事者だけで決める場合にも、十分参考になると思います。
養育費算定表
裁判所が養育費の金額を決定する際、通常は、養育費算定表というものを使います。これは、東京と大阪の裁判官が共同で作った資料で、今では、養育費を算定する際のスタンダードとなっています。
見てもらえばわかりますが、この表は、「義務者(養育費を支払う者)と権利者(養育費を受け取る者)の年収」「養育すべき子どもの人数」「養育すべき子どもの年齢」という3つの要素をかけあわせ、適切な養育費額を導き出すものです。
例えば、離婚時、夫はサラリーマンで年収は600万円、妻はパートで年収は100万円、2人の子ども(長女16歳、二女12歳)は妻が養育するとします。この場合は、右上に「表4 養育費・子2人表(第1子15~19際,第2子0~14際)」と書かれている表で調べます。
縦が夫の年収、横が妻の年収です。縦軸600万円と横軸100万円が交差するところを見てみると、8~10万円のゾーンに入っています。つまり、子ども2人分の養育費としては、1か月8~10万円が適正ということです。
この表さえあれば、簡単に養育費の適正額を調べることができます。注意する点は、表から算定した金額は、子ども1人分ではなく全員の分だという点、収入は年収をベースにしているので、ボーナスも含まれているという点、それと、サラリーマンと自営業者では基準が違うという点です。特にこれを間違えると金額が大きく違ってきますので、気をつけてください。
養育費計算式
養育費算定表は非常に便利なのですが、子どもが3人までしか対応していませんし、義務者と権利者の収入も上限があります。
確かに、子どもが4人以上、あるいは年収が2000万円以上のケースというのは、そう多くはないでしょうが、私も何件か扱ったことがあります。お医者さんからの依頼の時には、源泉徴収票を見て腰を抜かしそうになりました。
では算定表が使えない場面ではどうしているのかと言いますと、養育費を算出するための計算式があるのです。それがこれです。
基礎収入=年収×基礎収入率 ※基礎収入率は、通常0.34~0.42ですが、高額所得者の場合には、基礎収入率は0.34未満にします。
2 子の生活費子の生活費=義務者の基礎収入×(55×A+90×B)/(100+55×A+90×B) ※Aには0歳から14歳までの子どもの人数、Bには15歳から19歳までの子どもの人数を入れます。
3 支払うべき養育費支払うべき養育費=子の生活費×義務者の基礎収入/(義務者の基礎収入+権利者の基礎収入)
子どもの人数や収入が多い場合以外でも、2度目の離婚で前妻との間に子どもがいて、そちらにも養育費を支払っているとか、既に再婚していて新しい扶養家族がいるというケースはよく出くわします。
こういった場合も算定表をそのまま当てはめることはできないため、専用の計算式で計算することになります。
養育費の金額を決める際の注意点
長期的に支払可能な額
養育費を支払ってもらう側からすれば、金額は高ければ高い方が良いと考えがちです。
私が離婚調停中の夫から依頼を受けて、裁判所に提出する書類を作成した案件でも、「養育費は10万円以下では絶対に応じません」と妻が頑張って、なかなか合意が成立しなかったことがありました。夫の収入から考えて、とても毎月10万円も支払える状況ではなかったのに、です。
この調停は、結局不成立となり、審判で、養育費は1か月6万円と決まったのですが、もし、夫が早く調停を終わらせたいと思い、10万円で応じていたらどうだったか。最初のうちは貯蓄などがあり、給料だけでは不足する分を補うことはできるでしょう。しかし、根本的に、収入に比して養育費の支出が大きいため、いずれは支払えなくなったのではないかと思います。
つまり、いくら高額な養育費を決めたとしても、支払われなければ何の意味もないということです。養育費の支払は相当な長期間になります。それであればこそ、長期間にわたって支払が期待できるような、妥当な金額を設定すべきなのです。
後に増額または減額の変更が可能
離婚時に養育費の金額を決定する場合、当然、その時点での収入や状況によって算定することになります。
しかし、その状態がいつまでも続くとは限りません。義務者である父親が再婚をして、新たに扶養家族ができるかもしれませんし、会社の経営状態が思わしくなく、給料が減るかもしれません。そうなった場合には、父親にとって、離婚時に決めた養育費の金額が、大きな負担になることでしょう。
また、子どもが高額な治療費を要する病気になったり、母親が怪我をして仕事を辞めざるを得なくなったりすると、養育費が不足するでしょう。
このような場合、養育費の減額または増額を相手方に求めることはできますし、調停を申し立てることもできます。ただし、一旦決めた養育費を変更するわけですから、そこには合理性が必要です。特に、もともと決めた金額が妥当なものであれば、それを変更するには、それなりの理由がなくてはなりません。
長い支払期間の中では、急にお金が必要になることもあるでしょう。何かイレギュラーな出来事が起こった時のために、双方で十分協議ができる体制を整えておくことをお薦めします。
養育費の取り決めを離婚時にしておくべき3つの理由
養育費の支払状況
養育費という言葉は誰でも知っていますし、頻繁に使われます。しかし、実際に養育費を支払ったり、支払ってもらったりしている人は、それほど多くはありません。
現在、養育費が支払われている世帯は、全体の2割程度と言われています。
非常に低い数字だと感じますが、実は支払われていないのも道理で、厚生労働省の調査によると、離婚時に養育費の取り決めをした母子世帯は、約38%にとどまっています。残りの60%は取り決めすらしていないのですから、養育費が支払われるはずがありません。
約束をしていなくても養育費は請求できる
まず、養育費を支払ってもらうことは、権利であるという点を十分に理解してください。遠慮することはありません。国がそう決めたのですから。そして、養育費は、支払うという約束をしていなくても、支払ってくれと請求することができるのです。
例えば、夫の暴力やモラルハラスメントがひどく、逃げるようにして離婚をした場合、とても養育費の取り決めなどすることはできなかったでしょう。そうではなくても、感情的になって離婚した場合や、夫が話し合いに応じなかった場合にも、養育費を決めることはできません。おそらく、取り決めをせずに離婚したケースでは、上記のような事情も多くあったのだろうと思います。
しかし、よく考えてください。養育費とは、子どもを育てるのに必要なお金であり、子どものためのものです。ですから、離婚時に養育費の取り決めをしていなくても、子どもを育てるために必要であれば、いつでも請求できるのです。離婚後何年経っていても、です。
養育費は離婚時に決めておくべき3つの理由
確かに、養育費は子どもが成年に達するまでであれば、いつでも請求はできます。しかし、それでも離婚時に決めておかなければならない理由があるのです。
義務者に新たな家庭ができている
心情的な問題
義務者とは、養育費を支払う側のことですが、離婚後、何年も経過すると、別れた夫が再婚しているということも十分に考えられますし、再婚相手との間に子どもが生まれていることもあるでしょう。そうなると、元夫が子どもに対して抱く愛情は、どうしても再婚相手との間の子どもの方に、より多く注がれることになり、養育費を出し渋る可能性が出てきます。
これが離婚時であれば、他に子どもはいないわけですし、愛情も十分にあるでしょうから、養育費の話もスムーズにまとまりやすいと考えられます。
法律的な問題
養育費をいくらにするかという金額の算定方法については、改めてお話をしたいと思いますので、ここでは結論だけ申し上げますが、養育費を支払う側に、扶養家族が多いほど、養育費の金額は少なくなります。これは感覚的に理解できると思います。
極端な話、元夫と再婚相手との間に、子どもが5人生まれたとすると、当然、そちらの養育にお金が必要になるわけですから、養育費にさける金額は減少します。離婚後、時間が経てば経つほど、この危険は大きくなります。
ですから、養育費は離婚時に、遅くとも離婚してから速やかに、決めなければならないのです。
義務者が行方不明になる
これは非常によくあるケースです。離婚してすぐは、1か月に1回程度、元夫が連絡をしてきて、子どもと一緒に遊んだりするでしょうが、時間が経つにつれ、その連絡もとぎれとぎれになり、いつしか音信不通になったりします。
そういう状況で、養育費を支払ってもらいたいと思ったとして、実際に行動を起こせますか?
どうしても養育費が必要であるなら、いろんな方法を使って連絡を取ろうとするでしょう。しかし、そこまで窮迫しているわけでもなく、「支払ってくれるなら支払ってもらいたい」という程度であれば、手間暇をかけて元夫の行方を探すことまでしないのではないでしょうか。
実際、私の知人にも、養育費が支払われておらず、元夫が行方不明になっているという状況で、「養育費を支払って欲しいし、まず行方を探さないとなー」と言いながら、何もしていない人がいます。おそらく、この先も、彼女が元夫の行方を探すことはないでしょう。
このようなリスクを避けるためにも、養育費の取り決めは離婚時にしておくべきです。
過去の養育費は請求が難しい
「養育費は、何の取り決めがなくても当然に発生し、いつでも請求できる」
この考え方からすると、離婚後何年経っていても、離婚直後の分からの養育費を全て請求できることになります。しかし、実際はそうではありません。
例えば、養育費が支払われないため、家庭裁判所に養育費の支払いを求めて調停を申し立てたとします。この場合、いつからの分の養育費が認められるかと言うと、調停申立時というのが、裁判所の考え方です。なぜなら、「それまで養育費の支払がなくても生活ができていた」「過去に扶養が必要な状態であったかが不明瞭である」「何年分もの養育費を一気に請求されると義務者の負担が大きい」ためだと言われています。
また、そういう事情がなかったとしても、養育費は5年の消滅時効にかかり、それ以上前の分は請求できません。
つまり、養育費の取り決めが遅れれば遅れるほど、単純に、支払われる金額が少なくなるということなのです。
冒頭の調査結果ですが、養育費の取り決めをしていてさえ、支払われているのはその半分程度で、取り決めがない状態で支払われる可能性はほぼ0です。 養育費を支払ってもらいたいと少しでも思うのならば、必ず離婚時に取り決めをするべきだと肝に銘じてください。
「体調が悪くなったのでホテルで休憩していただけ」という言い訳は裁判で通用するのか!?
ホテルに行ったことがばれた時、「休憩しただけで、何もしていない」という、全く信憑性のない典型的な言い訳があります。はたしてこの言い訳はどこまで有効なのでしょうか。
私が代理人として訴えを提起した裁判の実例をご紹介します。
ラブホテルに入るとはどういうことか -事実上の推定-
下の記事の中で、ラブホテルに入るという事実にはどのような意味があるのかを述べました。
そして、ラブホテルに入ると、性交渉があったという事実推定が働くため、体調が悪くなったという反論だけでは、この推定は覆せないと結論づけました。
体調が悪くなったというのであれば、それなりの証拠が必要であり、その証拠が出せないのならば、性交渉があったと認定されるということです。
ラブホテルに入った事実についての裁判所の対応
事件の概要
私の依頼人は男性で、妻(訴訟の時点では離婚が成立していましたので、以下「元妻」と記載します。)が浮気をしたとして、浮気相手の男性に対する慰謝料を請求するため、訴訟を提起しました。
訴訟提起前に、相手の代理人と数か月にわたって交渉を行ったのですが、結局和解はできませんでした。相手が、不貞行為の事実を完全に否定したからです。
こちらには、探偵の調査報告書という証拠がありました。元妻と浮気相手が一緒に食事をしたり散歩をしたりした後、ラブホテルに入り、約3時間後にホテルから出てくるところをとらえた写真や動画でした。
浮気相手の男性は、ラブホテルに入った事実は認めながらも、それは元妻の体調が悪くなったからだと強硬に主張してきました。
2人だけで食事をしていたのは、元妻から、依頼者の男性と離婚したいと思っていると相談されたため、話を聞いていたのだという説明でした。
双方の主張
原告であるこちらの主張は単純です。
というものです。一方、被告の反論は次のようなものでした。
この反論に対し、原告は次のとおり再反論しました。
これに対しては、被告が提出した元妻の陳述書に以下の記載がありました。
判決
裁判所は、不貞行為はなかったという被告の主張を認めませんでした。この部分についての判決を要約すると、次のようになります。
結局、被告は元妻の体調が悪かったとは言うものの、それを裏付ける証拠が出せなかったため、「ラブホテルに入った=性交渉があった」という事実上の推定を覆せなかったということです。
逆に言うと、ラブホテルに入った証拠があれば必ず勝てるという訳ではなく、体調が悪かったということが立証できる反対の証拠を出されると、事実上の推定は覆り、不貞行為があったかどうかが不明という判断がなされ、請求が認められなくなるということです。
結論
「体調が悪くなったのでホテルで休憩していただけ」という言い訳は裁判で通用するのかという問題の結論としては、原則としては通用しない。ただし、例外的に、体調が悪くなったという証拠があれば、有効になることもある、ということです。
ところで、この裁判ですが、実は、私にとってはより重大な問題を含んでいました。
ラブホテルに入ったという証拠がある時点で、不貞行為がなかったという反論は採用されないと思っていましたので、今回の論点はさほど重視していなかったのです。
それよりも、事件の説明で少し触れましたが、元妻が、原告と離婚したいと考えていたという点が問題でした。いわゆる婚姻関係の破綻です。
婚姻関係の破綻については下の記事で書きました。
では、本裁判の中で、婚姻関係の破綻がどのように扱われたのか?記事を改めて詳細に説明したいと思います。
未払の養育費、絶対回収したる! 給料差押え・実践編
給料の差押えは、特に複雑な案件でなければ、ネットで情報を検索するだけで、まったく知識のない人でも可能ですよ!
まずは、給料の差押え手続に必要な知識をまとめます。
抑えておくべき用語解説
債権者と債務者と第三債務者
どれも似たような語感ですが、これがわからないと裁判所から来た書類の意味が理解できないなんてことにもなりかねませんので、しっかり区別してください。
まず、債権者というのは、養育費を請求する人です。差押えをする人ですね。 次に、債務者というのは、養育費を請求される人です。差押えをされる人ですね。
で、第三債務者というのは、債務者が勤めている会社などです。
債権差押命令
簡単に言うと、「給料を差し押さえてOK」という裁判所の許可です。給料の差押えは、「債権差押命令申立書」というのを裁判所に提出します。つまり、「給料差押の許可を申し立てる」という意味です。
裁判所の許可が出たときには、「債権差押命令が発令された」というふうに使います。
債務名義
公正証書や調停調書のことです。つまり、強制執行ができる根拠となる書類ですね。他には、判決や審判書、支払督促などがあります。
僕は「名義」という単語が、最初の頃違和感があったのを覚えています。
差押えに必要な書類
これが結構あるんですよ。僕も何回もやってるんですが、毎回本やネットで確認しながらです。
執行力のある債務名義
債務名義に執行文というのをくっつけます。通常、調停調書に執行文はいらないですが、公正証書や判決には必要です。公正証書の場合は公証役場で、判決の場合は裁判所で出してくれます。
送達証明書
公正証書や調停調書を、相手方にも送付しましたよという証明書です。これも公証役場や裁判所で出してくれます。
代表者の資格証明書
第三債務者は会社であることが多いので、その会社の社長は誰かということを明らかにするために、会社の登記事項証明書が必要です。これは法務局で取れます。
第三債務者が会社ではなくて、個人事業主の場合には不要です。
住民票・戸籍謄本等
債権者または債務者の氏名や住所が、公正証書などが作成された時と今とで違っている場合には、同一人物であることを証明するために、住民票や戸籍を提出しなければなりません。
自分で作成する書類
以上の書類は、役所や裁判所で発行してくれますが、それに加えて次の書類を作成する必要があります。
当事者目録
請求債権目録
差押債権目録
第三債務者に対する陳述催告の申出書
漢字の羅列でテンションが下がりそうですが、裁判所のサイトには、ひな形や記載例がたくさんありますので、それらを利用すれば、意外とスムーズに作れますよ。
差押えに必要な費用
申立手数料として収入印紙で4000円が必要です。後は、裁判所は債権者や債務者、第三債務者に書類を郵送しますので、その分の切手を予め納める必要があります。この金額については裁判所ごとに決められていますので、事前に確認が必要です。
なお、手数料の4000円とか予納する郵便切手についても、差押えに必要な費用ということで、養育費と一緒に差し押さえて回収できます。
管轄裁判所
債務者が、現在、実際に住んでいる住所地を管轄する地方裁判所に書類を提出して、申立を行います。
差し押さえられる給料の範囲
給料というのは、生活のためになくてはならないものですから、その全額を差し押さえることはできません。原則として、差し押さえられるのは、手取額の4分の1です。
なので、養育費の額が毎月8万円で、手取額が24万円だと、毎月2万円足りない計算になりますが、これは諦めるしか仕方がありません。
なお、手取額が44万円を超える場合は、そこから33万円を差し引いた額を差し押さえられます。手取りで50万円あれば、17万円も差し押さえられます。
やっぱり別れた後も、持つべき者は高給取りの旦那ですね。
給料差押えの流れ
差押命令の発令と送達
苦労して申立書を作って、裁判所に何とか受理してもらえたら、後は差押命令が発令されるのを待つだけです。
この間は特に何もする必要はなくて、裁判所から債務者と第三債務者に対して、差押命令が発令されたよという通知が行きます。そして、債権者には、債務者へはいつ通知が届いたのかを知らせる書類が届きます。
これは、債務者に通知が届いてから、1週間過ぎた時点で、差し押さえた給料を受け取ることができるためです。
陳述書の提出
第三債務者からは、債務者の月給はこれだけで、ボーナスはこれだけあるよというお知らせが裁判所に届き、裁判所から同様のものが債権者に送られます。
第三債務者との打合せと取立
おそらくちょっと意外に感じられると思うのがここです。第三債務者から、差し押さえた給料を支払ってもらうわけですが、この時、裁判所が間に入るのではなく、債権者と第三債務者が打合せをして、直接支払ってもらいます。
普通、振り込みなので、口座を伝えたりという事務的な手続ですね。
取立届の提出
第三債務者から差し押さえた分の給料を受け取った債権者は、裁判所に対し、いくらいくら取り立てましたという報告書を出さなければなりません。ちょっと面倒くさいですよね。
給料差押えの実務
実務上よくあるのは、初回の差押え後に、債務者との間で和解が成立して、差押命令を取り下げるというケースです。
債務者としては、いつまでも給料を差し押さえられたままというのは、会社の手前、避けたいというのもあるのでしょうか。「どうせ給料を差し押さえられてるのだから、養育費ぐらい自主的に支払ってやれよ」と思われかねませんしね。
また、第三債務者が非協力的ということもあります。
第三債務者に対して陳述催告の申出をして、債務者の給料がどれぐらいあるのかを教えてくれと頼んでいるのに、全く無視するところも少なくありません。一度、本当かどうかわかりませんが、そんな従業員はうちにはいないと言われたこともありました。
まあ、たまにはすんなり行かないこともありますが、条件さえそろっていれば、後は手続だけの問題ですので、自分で全てやってしまうこともできると思います。
頑張ってください!
未払の養育費、絶対回収したる! 元夫が行方不明編
給料差押えの方法もわかったし、早速養育費を払わせてやろう!と意気込んで、久しぶりに元夫に電話をかけたところ…電話がつながらん!番号変わっとる!今どこに住んどんねん!?
残念ながら、離婚後、時間が経過すればするほど、このようなことは起こりやすくなります。
養育費を請求したいのに元夫の居場所がわからず行方不明!
こういう場合、まず考えられるのは、元夫の友人や仕事関係の人、あるいは実家に連絡をして、現住所や電話番号を教えてもらうという方法です。古い年賀状を引っ張り出してきたり、昔使ってたガラケーのアドレス帳を調べたり。
幸運にもここで情報が得られ、連絡をとることができれば言うことはありません。
しかし、元夫の友人とは特に親しくなかったため、連絡先がわからず、職場に電話をしたら既に退職していて情報は得られない。実家に問い合わせてみたら、結婚当時から折り合いの悪かった元夫の母親に、「知りませんよ」とあっさりと電話を切られる始末。
いくら養育費を請求する権利があるといっても、支払ってくれる相手が見つからないのではどうにもなりません。そうだ!と思い立って裁判所に相談したら、「こちらでは何ともできません」と素っ気なく言われて終わり。
一体どうしたらいいのか。
養育費を支払わせるために行方不明の元夫の居場所を調べる方法
方法は大きく分けて2つあります。住民票などの公的な書類を調べる方法と、元夫の足取りを追うなど実際に調査をする方法です。
住民票や戸籍の附票を取得してみる
まずは簡単に調べられるこちらの方法から試してみます。
住民票または住民票の除票を取得する
元夫なわけですから、結婚していた当時、どこで住民登録していたかはわかるはずですので、まず、その役所で住民票か住民票の除票を取ってみます。
元夫が、今もその役所の行政区域内にいるのならば、住民票が発行され、あっという間に現住所が判明しますし、どこか他の市町村へ転居したのなら、住民票の除票が発行され、そこには転居先の住所が載っているはずですから、それでさらに追跡できます。
しかし、住民票の除票は5年間保存しなければならないと決められていて、逆に言うと、5年を過ぎれば廃棄しても良いということになっています。したがって、離婚後長期間経過している場合には、住民票の除票で追跡することは難しいかもしれません。
戸籍の附票を取得する
住民票または住民票の除票による調査がうまくいかない場合には、戸籍の附票を取得するという方法もあります。戸籍の附票とは、戸籍のおまけのようなもので、住所の履歴が記載されています。
つまり、離婚後何年経っていても、元夫が他の市町村に転居していても、本籍地がわかる限り、住民登録地が判明するということです。
第三者が住民票等を取得するには
なお、通常、第三者が他人の住民票や戸籍を取得することはできません。元妻でもです。ただし、役所の人に、養育費を請求する権利があることをわかってもらえれば、利害関係人からの請求ということで、住民票等を取得することはできます。
この場合、公正証書や調停調書などの書類が必要になりますので、詳しくは請求をしようとする役所で確認してください。
刑事のように元夫の足取りを追う
問題は、元夫が、居場所を知られるのを嫌がって、住民票を移していないというケースです。役所に転居届を出していなければ、住民票などの追跡は何の意味もありません。公的な書類から追跡する術はなく、こうなったら、実際に、元夫の転居先を地道に調べるしかないのです。
しかし、素人にとってそんなことは至難の業ではないかと思います。元夫が昔に住んでいたところで、近所の人に聞き込みをするとか、前の職場を訪れて、転職先を知らないかと訊ねまわるとか。自分で調査をするのは、現実的ではないような気がします。
やはりここは、専門家である探偵の助けを借りるのが無難というか、そうするしかないのではと思います。行方不明になっている人の調査を得意とする探偵であれば、見つけ出すことも可能でしょう。
ただし、浮気調査などとは違い、最初から対象が目の前にいて、それを尾行すれば良いというものではありませんので、相当に難しい調査になることも十分に考えられます。
そして、探偵と一口に言っても、その調査力には大きな差がありますので、依頼される場合の探偵選びは、くれぐれも慎重に。
私が調べた中では、原一探偵事務所の万全を期した調査体制は相当ハイレベルだと感じました。詳細は、下の記事で紹介していますので、参考にしてみてください。
原一探偵事務所は、人探しも得意としているということですので、探偵に依頼される場合には、検討してみることをお薦めします。