浮気・不倫慰謝料請求の問題点 浮気相手の故意または過失
浮気・不倫慰謝料請求の問題点として、浮気相手の故意または過失というテーマがあります。
おそらくちょっと理解しにくいところだと思いますので、できるだけわかりやすくお話しします。
浮気相手の故意または過失とは
浮気相手に対する慰謝料請求の場合、「肉体関係がある」「婚姻関係が破綻していない」に加えて、「浮気相手に故意または過失がある」ことが必要です。この点は、下記の記事でも触れました。
ここでは、もう少し具体的に解説します。
浮気相手の故意
「故意」というのは、法律的には「自己の行為によって他人の権利を侵害することまたは違法と評価される結果を発生させることを認識しながら、あえてその行為を行う心理状態」です。
つまり、浮気の場合の故意とは、OLが「課長には奥様がいるし、家庭を壊してしまうかもしれない」と理解した上で「でもこの気持ちは止められないの!」と暴走して、課長と不倫関係を結んでしまうことです。
特に、家庭を壊そうという意図がある必要はありません。
家庭が壊れる可能性を理解している、すなわち、課長が結婚しているということを知っていれば、故意になり、慰謝料支払義務が生じますし、知らなければ故意にはならず、慰謝料支払義務は生じません。
浮気相手の過失
では、浮気相手が課長が結婚していることを知らなければ、慰謝料を請求することはできないのかと言うと、そうではありません。
もし浮気相手が課長が既婚者だと知らなくても、知らないことについて「過失」があれば、やはり慰謝料支払義務を負うのです。
「過失」というのは、法律的には「違法な結果が発生することを予見し認識すべきであるにもかかわらず、不注意のためそれを予見せずにある行為を行う心理状態」です。
つまり、浮気の場合の過失とは、OLが「課長は左手の薬指に指輪をしているわ」と思いながらも「でも課長は独身だと言っているから信じているの」と勝手に思いこんで、課長と不倫関係を結んでしまうことです。
いくらOLが課長が独身だと信じていたとしても、普通であれば既婚者だと認識できたのならば、過失があるとして、慰謝料支払義務が発生します。
しかし、実際のところは、浮気相手が「既婚者だとは知らなかった。独身だと思っていた」と主張することは多くありません。
それでも過去に一度だけ、慰謝料請求で訴訟を提起したところ、「独身だと信じていた」と反論された上に、それを補強する証拠をどんどん出されてしまって、やむを得ず取り下げたことがありました。
あの時はまいりました…。
浮気相手からのよくある反論
では、浮気相手はどのように対抗してくるのかと言いますと、「婚姻関係は破綻していると思っていた。だから慰謝料を支払う必要はない」と反論してくるのです。
つまり、「独身」ではなく、「婚姻関係の破綻」を信じていたというわけです。
「婚姻関係の破綻を信じた」という主張
「婚姻関係が破綻していないこと」は、慰謝料請求の条件の1つです。逆に言うと、「婚姻関係が破綻していた」場合には、浮気相手には慰謝料支払い義務は発生しません。
さらに、実際には婚姻関係が破綻していなくても、浮気相手がそう信じており、そう信じたことに過失がなければ、やはり慰謝料を支払う義務は負わないのです。
もちろん、課長が「我が家は婚姻関係が破綻しているから、僕とつきあっても不貞にはならないんだよ」と言ったとしても、それをホイホイと信じて肉体関係を持ってしまっては、「過失」があったと言われても仕方ありません。
しかし、課長が自宅にも帰らず、毎日カプセルホテルに泊まっていたり長期間にわたって妻と別居していたり、あるいは、離婚の準備を進めているとして、妻のサインがされた離婚届を持っていたりというように、明らかに夫婦関係の改善が不可能だと思えるような場合には、婚姻関係が破綻していると信じるのも無理はないかもしれません。
そうなると、過失はなかったとみなされ、不法行為は成立しなくなり、慰謝料支払義務もなくなるのです。
実務上の取り扱い
こういった主張は、実際の慰謝料請求の場面では頻繁になされます。浮気相手が慰謝料の支払いを拒否する際の常套手段です。
婚姻関係が破綻していると思った理由は、ほとんどの場合、浮気をした配偶者から、「もう何年も前から口もきいてない」「今、離婚の協議中」「来月別れる」などと言われて、それを信じたからというのが圧倒的に多いのではないかと思います。
では実際にそのような反論がされたとして、どの程度有効なのかが問題です。
私が関わってきた慰謝料請求案件では、実際に婚姻関係が破綻していなかったケースに限れば、その反論によって請求を諦めた、または認められなかったという事案は1つもありませんでした。
「婚姻関係が破綻していると信じた」という主張は、相当ハードルが高いと思います。
つまり、実際には婚姻関係は破綻していないのに、「破綻していると聞いてそれを信じた」という反論は、あまり意味がないということです。破綻していると言われてそう信じたにしても、そう信じることについて「過失」があったと判断されるのです。
いい大人なのだから、そんな簡単な嘘にだまされる方にも問題があると裁判所は考えているのでしょうか。