浮気相手が水商売だと慰謝料請求できない!?
今回は慰謝料請求に関する裁判例のお話です。
不倫の慰謝料請求に関する知識を求めて、日々、ネットの情報をどん欲に集めている方なら、この記事のタイトルを見ただけでお察しいただけたかと思いますが、平成26年4月14日、東京地方裁判所で「うそ!?」と一瞬固まってしまいそうな判決が出ました。
東京地判平成26年4月14日枕営業判決
事案の内容と通常の考え方
事案としては簡単な話で、銀座のクラブのママと店の常連客である社長が、7年間も不倫をしていたとして、その社長の妻がママに対して、400万円の慰謝料を払えと訴えたわけです。
言うまでもありませんが、女性が、男性を既婚者だと知りながら肉体関係を持った場合、その男性の妻から慰謝料の請求をされても文句は言えません。以下の超有名な最高裁判所の判例で、はっきりとそう言っています。
夫婦の一方の配偶者Aと肉体関係を持った第三者Bは、故意または過失がある限り、配偶者Aを誘惑するなどして肉体関係を持つに至らせたかどうか、AB両名の関係が自然の愛情によって生じたかどうかにかかわらず、他方の配偶者Cの夫または妻としての権利を侵害することになり、その肉体関係は違法行為となり、他方の配偶者Cの被った精神上の苦痛を慰謝すべき義務がある。
夫を誘惑したとかしてないとか、恋愛感情があったとかなかったとか、そんなことは関係なくて、やったんなら慰謝料払えよ!ってことです。
枕営業判決の簡単な解説
ところが、東京地裁の判例は、次のような理論構成によって、慰謝料を支払う必要はないと言い切っています。
社長はすごい上客なわけで、ママが社長と寝たのは、社長に、今後もどんどんお店にお金を落としてもらいたいから。要するに枕営業ってわけ。
上の最高裁の判例は確かにそうなんだけど、それは普通の人の話で、ソープ嬢みたいな売春婦が客と関係を持ったとしても、それは商売として、客の性欲を処理しただけだから。客の夫婦関係には全然影響はないし、それで客の嫁が精神的苦痛だなんだと言ったところで、ソープ嬢には慰謝料を払う義務なんてないよ。
クラブのママやホステスが枕営業やってるのは当然で、みんな知ってることじゃない? だから、ママの枕営業もソープ嬢と同じってことで、嫁に慰謝料払う必要なんてないんだよね。
と、まあ、ものすごい怒られそうですけど、わかりやすく解説するとそういうことです。
どこから手をつけていいかわからないぐらいに、言いたいことや疑問は次々にわいてきますが、私が一番ひっかかったのは、ソープ嬢=売春婦だと明言した上で、クラブのママも同じ仲間に入れてしまったという点です。
売春婦と言われたソープランド勤務の女性も相当不愉快な思いをされていると思いますが、当事者のママはどう感じたのでしょう。
また、今の時代に「売春婦」という言葉のチョイスも違和感を覚えずにはいられません。
この裁判は、全面的に敗訴した原告が控訴しなかったため、第一審で確定しましたが、もし控訴していれば、判決が覆った可能性があるというのがおおかたの見方で、さすがにこれが先例となって、枕営業の場合には慰謝料請求を認めないといった流れになることは考えにくいようです。
ネット上には、この判決について詳しく解説している記事がたくさんありますので、興味のある方は調べてみてください。
実務への影響
それにしても奇妙な判決が出たもんだなーなどと、対岸の火事のようにぼんやり思っていたら、つい最近、私の頭上からも火の粉が降ってきました。
夫の浮気相手であるキャバクラ嬢に慰謝料請求をしていた裁判で、被告の弁護士から、この判決が証拠として提出されたのです。
一瞬絶句しましたが、法律で仕事をしている業界の中でも、末端的存在の私にまで影響があるのだなと、判決のインパクトの強さを改めて感じました。